suzusan インタビュー
ブランド設立までと、創作に対する考え方
2020年5月19日

作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。

今回は愛知県名古屋市の有松・鳴海地域で400年以上にわたって受け継がれてきた『有松鳴海絞り』をモダンに転換した『suzusan』

『有松鳴海絞り』を受け継ぐ鈴三商店の5代目として生まれた村瀬弘行(むらせ・ひろゆき)氏が、ドイツで新たに起業して伝統のプロダクトを独自の視点でアレンジ。

第1回の今回はブランドの立ち上げに至る経緯と、自身の経験とそこから得た教訓によって磨き上げてきたクリエーションの源泉についてお話いただきました。

村瀬 弘行

ドイツ・デュッセルドルフを拠点に、愛知県名古屋市の有松・鳴海地域で400年以上にわたって受け継がれてきた『有松鳴海絞り』の伝統技法を、鈴三商店の5代目として生まれた村瀬弘行(むらせ・ひろゆき)氏が再解釈してアレンジ。

『有松鳴海絞り』の伝統と現代的な要素を掛け合わせたコレクションを発表しています。

 


 

ANNASTESIA NAGOYAを拠点に販売員として店頭に立つ傍ら、メディア編集者として活動している。

舞台や広告カメラマンの経験を経て2019年3月に入社した専属フォトグラファー。

 


 

"いろんな国や文化に溶け込む「風通しの良いデザイン」であるということを心掛けています。"

村瀬氏。『suzusan』のクリエイティブ・ディレクターとして生地の選定からデザインまでを統括。

美術の世界を志し海外へ。その先で見つけた新しい価値観。

---ます、ブランドを立ち上げるまでの経歴についてお聞かせください。

もともと二十歳まで日本にいたんですけど、日本にいるときはこういったことをやるつもりは全くなかったんです。

僕はアートに興味があったので将来はその分野に進もうと思い、日本の美術大学に進学しようと思っていたんですが、受験に失敗して。

それで帰りのバスの中で海外に行こうと決めました。

それからすぐに1年ぐらいとしてアルバイトをしてお金を貯めて、最初はイギリスの大学に行ったんですが、すごく学費が高くてお金がすぐになくなってしまってどうしようか悩んでいた時に、ドイツは学費が無料だということを紹介してもらってドイツの大学に編入しました。

受け継がれてきた様々な柄を、鮮やかな色彩で表現。

---もともとやるつもりがなかった、とおっしゃっていましたが、suzusanを立ち上げるきっかけはなんだったのでしょうか?

父も家業を継いでほしいとは言わなかったんですけど、産業としてもあと10年もしたらなくなるというふうには聞いていたので、「このままなくなっていくのはもったいないな」と思ってはいたんです。

僕がこの仕事を始める直接のきっかけとなった出来事は、在学中に父がイギリスで行われたあるテキスタイルの展示会で展示をするということで、その手伝いをした時にドイツに持って帰った作品を見て、フラットシェア※1をしていたドイツ人の友人(クリスティアン・ディーチ氏)がすごく興味を示したんです。

僕自身もその反応を見て、今まで自分にとって当たり前だった絞りの技術が、知らない人から見たらこんなに感動を与えるんだということに気づいて、もしかしたら実家でやってたこともすごく面白いんじゃないかなって思ったんです。

それともう一つ、僕が絞りを見返した大きなきっかけになったのが、イタリアのベネチア・ビエンナーレに行った時に見た、とある展示でした。

古今東西、有名無名も年代もジャンルも何もかもごちゃまぜになったって展示を見て、「アートはアーティストが作るもの」っていう自分の中の固定観念が覆されるような衝撃を受けたんです。

美しいと感じるものやそういう価値観って、どこからでも生まれるんじゃないかなと考えさせられました。

ディーチの反応もそうですが、それも大きな出来事でした。

---いろいろなタイミングや出来事が重なって生まれたと。

僕自身もちょうどビジネスに興味があった時期でしたし、彼もビジネスを専攻していて、いつか自分で起業したいと考えていたので、「これだ!」と思ったんでしょうね。

それで作品について説明したらこれで会社をやりたいと行ってきたので、その時は軽い気持ちで返事をして、会社を立ち上げました。

ディーチとは今も一緒に仕事をしていて本当に信頼しています。

※1フラットシェア : 高層住宅の1部屋を数人で借りて共同で生活する滞在方法のこと。

有松にある直営店のディスプレイ。

挫折、葛藤、失敗、少しづつ前進しながら世界の一流に認められていく。

---ブランド設立当初のことについてお聞かせください。

最初はストールを数本だけ作って、そこに「suzusan」というタグをつけた本当に小さなコレクションから始めました。

いろんなショップに連絡をして作品を見てもらおうとしても、名前も聞いたことないブランドのアポイントなんて受け入れてくれなかったので、作った作品をトランクに詰め込んでいろんなショップに売り込みに行きました。

---アポイントなしで行っていたのですか?

そうです。二人でヨーロッパ中のセレクトショップに売り込んでいく中で、少しづつ受け入れてくれるようになりました。

中でも大きかったのがレクレルールに行った時にたまたまバイヤーが店頭にいて、商品を見せたらオーダーしてくれて。

オーダー表もなかったので、持っていたA4の紙の端に書いてもらいました。

それが5年目くらいのことで、そこから少しづつ軌道に乗り始めました。

---それまでは苦労もたくさんありましたか?

最初の頃は数万円するストールを売りながら25000円の家賃払えないような生活でしたから、本当に苦しかったです。

セールスの面以外でも有松の職人からの反発もありました。

そんな中、父が矢面に立って説得してくれたということもあって、少しずつ理解してもらってここまで続けてこられた。

本当に感謝しています。

ありがたいことにブランドを始めて11年経ちますが、こんなに多くの人に見てもらえるようになるなんて想像もしてなかったですし、ディーチとは「将来こんなに大変になるって知ってたらやらなかったよね」って言っているくらいです。

店内のディスプレイ。

世界中のあらゆる場所に溶け込むデザインを。

---デザインする上で意識されること、製作をする時に考えていることはどんなことですか?

今suzusanは23ヶ国で販売していて、いろんな文化や国のなかで「その背景にはどんな風景があるんだろうというのを想像して、いつも「風通しの良いデザイン」であるということを心掛けています。

いろんな国の風景があって、それぞれ生活や気候、宗教も違うなかで、いろんなところに自然に溶け込んで見えるのがいい作品だと思うんです。

そこに住む人のことやその人ってどういう色が好きなんだろうとか、その人はどんな生活送ってるんだろうとか、作品を手に取ってくれる人を毎シーズン想像しながら作っています。

---絞りを見せることにこだわるわけではなく、あくまでも着用者ありきだということですか?

その通りです。

僕の中では「絞りの技術を見せたい」とか「伝統工芸を見せたい」というわけじゃないんです。

やはり洋服を作っている以上、それを着てくれる方のことをまず最初に考えないといけないと思うんです。

デザイナーになったとき、最初はこの考え方にすごく抵抗があって、本当に自分が好きだからいいじゃないかというふうにやってきたんですけど、それでは受け入れてもらえなくて。

その時に良いデザイナーというのは使ってくれる人に寄り添ったものを作れる人じゃないかと思ったんです。

"Beach"をテーマにした2020SSコレクション。ルックブックの下にあるのは定番で展開しているカシミアのストール。

インスピレーション源は自身の原点から。

--作品作りにおいて、インスピレーションを得られるのはどんな瞬間ですか?

もともとアートや音楽が好きなので、美術館やギャラリーによく行ったりするんですが、アートや音楽から感じたことや自分の中に引っかかるものがあれば頭の中に残しておく、というのは常にしています。

それとドローイングが好きなので、描いているものや過去に描いたものから得られる場合もあります。

ドローイングは何か作ろうと思って書く時と、頭の中にあるものをただ吐き出す作業としてやる時があって、例えばシャツを作ろうと思った時はシャツのデッサンをするんですが、 それとは別で何かを形にしようと思わずに、ただ手を頭を動かすというだけの作業っていう時もあるんです。

その時に描いたもので面白いなと思ったものを残して置いて、ふとした時にそういうものを引き出していってデザインに落とし込んでいくいうことが多いです。

インスピレーションを得られるのはそういうところからですね。

インスピレーション源は自身が志したアートや音楽から。
書き残したドローイングからもヒントを得ることがあるという。

----洋服と並行してインテリア用品も製作されていますが、どんな違いがあると感じていますか?

ファッションの世界は半年ごとに新しいものを作らないといけないのに対して、インテリアは出来るだけ長く使うことを求められているので、根本的な考え方が違うんですよね。

ファッションの方がそのサイクルが短い分、見つけた面白い素材を積極的に使えるんですけど、インテリアは使用期間が長いので、極端に言えば30年後でも受け入れてもらえるような素材を考えて選んだりしています。

継続して使っていると素材の扱いに対しての経験が増えていくので、その経験値はインテリアで少しずつ増えていると思います。

----確かに半年くらいで内装は変えないですよね。

インテリアって良いデザインのものは本当に何十年たっても全然廃れないじゃないですか。

例えば青いブランケットで使っている素材はもう何年も定番でやっている素材ですが、それでも素材としての価値が落ちるわけじゃない。

ただ、ファッションの世界では50年前に流行った服が今着れるかといったら必ずしもそうではないですよね。

今良いと思っているものを50年後に着れるかといったらまた違うと思うんです。

----流行り廃りがない分、別の大変さもあるということですね。

そうですね。

制作に対する考え方の面では大きく違うと思います。

普遍的な地位までもっていくのに時間はかかるんですけど、それがないところがインテリアの面白いところですね。

自分で製作してみてそれはすごく感じました。

ポリエステルを使った「絞り」仕上げシェードを被せたランプ。
絞り」特有の伸縮性を芸術的な感性をデザインに落とし込んでいる。

今回は幾多の困難を乗り越え、ブランドを成長させてきた過程、そしてデザインや創作に対する考え方をお聞きしました。

次回は実際の創作の過程や手法についてお聞きします。