
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。
今回特集するのは今年で設立22年を迎えたRIPVANWINKLE。
第2回の今回はブランドの成り立ちと製作の裏側、そして今後の展望について。
1997年、大野雅央氏が「リップヴァンウィンクル」を設立。
日々変化していく時代の中で、伝統と新しさを融合させたクラシックとコンテンポラリー、落ち着きとスタイリッシュさを調和させることをブランドのフィロソフィーとし、その時の気分や発想を重視して展開される作品は、素材を吟味し、カッティングにこだわり、優れたクラフトマンシップにのみ生み出せる本物だけを作り続けています。
インタビュー中の一幕。
時折冗談も交えて会話が進む。
---ブランドの経歴について教えてください。
ブランドは97年にスタートさせて、今年で22年目です。
もともと洋服自体はずっと好きだったんですけど、高校の時に雑誌のヘアモデルにスカウトされて、そこでこういうファッションがあるんだっていうのに触れたのがまずこの業界で働くきっかけになりました。
そのあとに縁があってモデル事務所に入って、モデル活動と並行して渋谷のセレクトショップでアルバイトしながら、そこのショップのオリジナルの企画だったり、インポートブランドもやっていたので海外に買い付けに行かせてもらったりしながらいろんなことを学んでいきました。
---色々ご経験されてそこからブランドを立ち上げたんですね。
僕自身は服飾の学校に行って勉強はしてないんです。
僕の中のクリエーションの根源というか、原点はストリートの感覚と現場で経験したことなんですよね。
その当時から将来的には洋服の世界で挑戦したい気持ちがあって、30才までにはスタートさせたい、と考えていました。
そこで知り合いが海外のブランドで働いていたので、買い付けのやり方を勉強して、28才の時に、知り合いや賛同してくれる人たちの力を借りてブランドを立ち上げました。
---ブランド名の由来は?
色々と理由はあるんですが、昔から松田優作が好きだったこともあったり、好きなアメリカの映画で出てきたりしていたので、僕の中では名前を使いたいなと思っていたのが[RIPVANWINKLE]だったんです。
それを当時一緒にやっていた人間に相談したら[いいんじゃない?]て言われて決まりました。
---松田優作の名作映画「野獣死すべし」の有名なワンシーンでリップ・ヴァン・ウィンクルの寓話を話すシーンが出てきますよね。
この映画を見たのは小学生ぐらいの時で、皆多分幼少の時のヒーローっていると思うんですが、僕にとってのヒーローは松田優作だったんですよね。
ブランド立ち上げまでのことを懐かしそうに振り返る大野氏。
幼少の時のヒーローと語る、故・松田優作氏の話になると心なしか嬉しそうな表情に。
---スタート当初はどんな苦労がありましたか?
スタート当初はどこのブランドで働いていたとかのバックボーンがなく、自分に対して信用がない状態だったので、工場探しを含めて、生産背景の構築は苦労しました。
それとブランドを立ち上げた時に、お店がないとブランドのイメージが伝えきれないと考えていたので、渋谷で直営店もスタートさせていましたから、当時は知り合いとか昔からのお客さんに来てもらってなんとかやっていた感じでした。
なんとかやりくりしている時に知り合ったスタイリストの方に雑誌を紹介してもらったり、いろんな人から助けてもらって少しづつブランドを認知してもらえるようになっていきましたね。
当時は雑誌に掲載してもらったりしていても、展示会はやってなかったんですが、要望も多くなってきたので、98年の秋冬から本格的に展示会を始めました。
インタビュー最中にはブランドが保管している過去の雑誌のアーカイブが登場。
貴重な資料に、大野氏をはじめとしたブランドスタッフも交えて全員で盛り上がる。
当時の雑誌のアーカイブ。
色々な人の助けもあり、徐々にブランドの認知度が上がっていった。
ブランドの最初期から製作しているパラシュートパンツの特集。
形を変えながら今尚支持を集める名作にしてブランドの代表作の一つ。
まだ独立して間もない頃の大野氏のインタビュー記事。
店頭に立ちながら製作をこなす多忙な日々を過ごしていた。
---ブランドを立ち上げた時にブランドの将来についてどうのようにお考えでしたか?
始めた時は目の前のことに対して精一杯やることばかりで、そういうことは全く考えてなかったですね。
ただただ毎日ガムシャラに過ごしていたことは覚えています。
---これまでのコレクションの中で印象に残っているコレクションはありますか?
今回の春夏コレクションでは46回目になるんですが、最初の頃のことは凄く覚えていますね。
レザージャケットやレザーシャツは展示会をやり始める前から作っていましたし、マウンテンパーカーやデニムなんかも今と素材は違いますが作っていました。
思い返してみると、ブランドの根底にあるものは今とあまり変わらないんですよね。
---デザインのインスピレーションが湧く瞬間はどんなときですか?
一言でこれという瞬間を表すことが難しいですが、言ってしまえば日常生活の中のすべての瞬間ですね。
何をしている時でもどこにいても気づいたら常にヒントは探していますし、それがクセになっているのかもしれません。
これはブランドを始めてから自分の中で大きく変わったことでもありますし、これからずっと変わらないかなと思っています。
ブランドの根底にあるものは今とあまり変わらない。
原点にあるものを大切にしながら「ブレない」ということを続けてきた。
---企画はどれくらい前からスタートさせるんですか?
服も小物も順番はあまり関係なくその時々で随時進めていく感じですね。
コレクションについては特定の時期にスタートさせたりというのはあまりなくて、アイディアは常に考えています。
デザインの構想やコレクション内のアイテム構成、製作にかかる時間もそれぞれ異なるので、いろいろなことをやりながら同時進行で進めています。
基本的には新しいアイディアが思い浮かんだ時にスタッフとのやり取りの中でアイディアを詰めていって具体的な形にしていく感じで製作しています。
思い浮かんだアイディアを元にスタッフと意見を交えながらコレクションを製作していく。
コレクションには納得するまで試行錯誤を重ねた作品が並ぶ。
---製作をスタートさせるにあたって、まずデザインからですか?それとも素材選びからですか?
両方並行して進めています。
アイテムや素材によってその時に決めていく感じですね。
---製作にあたって特にこだわっている点はどんなところですか?
例えばリブのステッチの上下をどうするかとか、あえてずらした感じとか、見えない部分であったり、細かいところまでどういう風に見せるか、というところは特にこだわっているところです。
デザイナーは誰でもそうだと思いますが、常々よりいいものを作りたいということと、完璧に納得したものじゃないと出したくないという思いがあるので、サンプルを作ってみてダメになったものもあります。
妥協したものを発表してもお客様には伝わりますし、そうするくらいなら出さない方がいいと思っています。
あえて不揃いにしたネックのバインダー。
この小さなディテールが作品に大きな違いを生み出す。
自分たちが作りたいものを100%に仕上げる。
作品を構成する全ての要素から妥協しないものづくりの姿勢が伺える。
---ルックについてこだわりはありますか?
一時は海外で撮影もしたりしていましたが、基本的にロケはしないですね。
いつもコレクションのイメージに合う場所を探して、撮影のイメージをカメラマンに伝えて撮影してもらっています。
今回のルックでは白い床を使いたかったので木の白いものにして、セットを組んで撮影しています。
モデルに関してはブッキングのタイミングもありますが、毎回オーディションをして選んでいます。
当たり前ですが、シーズンのイメージを伝える上ですごく重要なところですし、見てもらうお客さんにもシーズンごとの新鮮さを感じてもらいたいというのもあります。
新作アイテムとともに掲示された2020SSシーズンのルック。
シンプルな構図をベースに毎回異なった雰囲気を作り上げる
コレクションの空気感がストレートに伝わってくる。
---ブランドを立ち上げてから20年以上続けてこられた理由についてはどのようにお考えですか?
ありきたりになりますが、自分たちを支持してくれているお客様があったからです。
これに尽きると思います。
---ブランドの今後、将来についてどういった展開を考えていますか?
今後については具体的にこうしていきたいとかは考えていないです。
ただ、これまで22年続けてきて思うことは、自分が生きている限りはこのブランドを続けていくんじゃないかなと思っています。
このシーズン、次のシーズンと、シーズン毎に勝負だと考えているので、やるしかないなと。