
作り手の思想にフォーカスを当て、クリエーションの裏側にせまるデザイナーインタビュー企画。
今回は大阪を拠点に活動するD.HYGEN。
第三回の今回は素材へこだわりとパターン製作について。
全てにおいて妥協のないものづくりの裏側には、素材への愛情と、ブレない考え方、そして製作に携わる人への感謝が込められています。
「STRAINISM」ストレイニズム=緊張主義をコンセプトに掲げ、作り手、着る人にも緊 張感とそこに得られる高揚感を与えるプロダクトをテーマにベーシックなスタイルを解体、再構築。
レザー、テーラードをシグネチャーとし革の開発技術、テーラー技術の繊細で徹底した作りこみ、また鉄製のオリジナル金具の持つインダストリアル工業的な硬く冷たい表情 からも緊張主義を主張する。
デザイナーの定兼氏とパタンナーの立石氏の2人が2016年に設立したD.HYGEN。
創作の原点が育まれた幼少期や、多大な影響を受けた学生時代の出会い、専門学生時代に出会った2人が紆余曲折を経てブランドを立ち上げ、ファーストコレクションを発表。
これまでプロフィールを一切公表してこなかった二人が初めて語る、これまでの軌跡。
毎シーズンコンセプトに沿って作られる生地は、全てがオリジナルで開発したもの。
--- コンセプトやシーズンテーマに基づいた作品作りにおいて、生地、レザーについての考え方を教えてください。
定兼(デザイナー)
当たり前のことですが、常により良いものを製作しようとすると、既存のものや与えられたものでは表現しきれない、ということに気付かされます。
シーズンテーマとそれを表現するデザインに大きく関わってくるところですので、そうなると結局私たち自身でそれを表現できるものを作るしかない。
クリエーションに携わっている以上、100%というのは常に到達しないと思っていますが、できる限りそれに近づけるようにオリジナルの生地を開発しています。
立石(パタンナー)
それと毎シーズンその時の全力を尽くして製作していますが、次のシーズンには「もっとこうしたい」とか「こうすればもっと良くなる」ということに気づきます。
つまり、昨シーズンの100%が次のシーズンには最低限の基準になるわけです。
そういう意味でも生地の開発は私たちにとって重要な要素ですね。
生地や染色、加工についてはシーズンを重ねるごとに新しい手法を用いたものが増えていっていますが、それは私たちは常に進化して新しいものを作り出していかなればならないと思っていますから当然のことです。
--- 表現へのこだわりの一つということですね。
定兼
私たちの考えるテーマとそれを表現するデザインは少し特殊なので、それは私たち自身で作り上げるしかないのですが、幸いにもそれを理解して付き合ってくださるメーカーさんや職人さんが周りにいて、手助けしてくださるからできていることです。
私たちの仕事に関わってくださっている方々は、無茶な要求や初めて取り組むことにも「面白そうだからからやってみよう」といってくださったり、アイディアを形にするために色々と提案やアドバイスをいただくこともあります。
失敗することもありますが、それでも納得いくものができるまで根気強く付き合ってくれる。
そういった方々と一緒に作り上げていくような関係性を構築できていることが私たちも感謝しています。
--- それぞれの分野の職人さんと信頼関係があるからこうして納得してものづくりができている。
定兼
結局のところ、そこが一番大切だと思います。
私たちは職人さんと顔を合わせて話をすることを重要視していますし、密にコミュニケーションをとることでそういった信頼関係が築いていけると考えています。コラボレーションというか、お互いに楽しんで製作しているので。
私たち自身も毎回良い経験をさせていただいていますし、この作業の中で得た経験が関わってくださった方々のものづくりに反映してくれたら私たちとしても喜ばしいことです。
--- 素材開発に関してもデザインと一緒で共同作業で行なっていますか?
立石
主に定兼からアイディアを出して、それに対して私が意見を伝える形で進行しています。
ただ、パターンが関わらないデザインへの意見はそこまで言わないですね。
そういう意味では、この分野に私が関わっている割合は少ないです。
彼がデザイナーで、私がパタンナーであるということは私たちの中で明確に分担されていますので、意見は言うけれど、最終的には彼の意見を尊重する形ですね。
レザーの魅力と尽きることのない探究心。
シグネチャーアイテムのレザーは設立当初から全てオリジナルで開発している。
--- シグネチャーアイテムに位置付けるレザーもファーストコレクションからオリジナルで開発されています。
定兼
ブランドを始める前からレザーを中心に据えることは決めた時点で、オリジナルのレザーを作ることは決めていました。
一般的にはレザーを問屋さんから購入して使うというのが普通のやり方かと思いますが、それだと私たちの表現したいことができないですし、差別化もできないと思っていましたから。
--- それで自分たちで開発しようと。
それには前職のノウハウが生かされているのでしょうか?
定兼
元々の目的はレザーに対する造詣を深めて開発までできるようになることが目的だったので、前職での経験は多いに生かされています。
そこでタンナーから漉き割りまで私たちに協力してくださる方々に出会えたことや、レザーの仕入れから製品化まで全て経験できたからこそ、私たちのやりたいことをするために何が必要かというのも理解できました。
--- 定兼さん自身も常々レザーが好きだとおっしゃっています。
定兼
やはり根底には単純に「レザーが好き」という気持ちがあります。
私自身、服よりも先にまず音楽に興味があったのでその時に好きになったミュージシャンたちはみんなレザージャケットをきていましたし、バイクに興味を持ち始めた時はバイカーがダブルのライダースを着ている姿に憧れました。
かっこいいと思う人たちは全員レザーを着ていたので、自分もそれを真似して着ていて、その時に感じていた気持ちが今も続いているというのはありますね。
それに例えばコンマ1秒を争うスポーツレースの世界で使われているレーシングスーツの素材はレザーなんです。
人間が一番最初に着たのもレザーで、現代の最先端の世界でも極限の世界で生きてる人が身にまとっているのはレザーなんです。
それってすごいことじゃないですか?
レザーは人間が衣服に使った一番最初のマテリアルのひとつで、高機能の素材やペットボトルをリサイクルして服も作れる時代になってもいまだに特別感のある素材という認識されていますし、昔から人間の生活の中にあったということを考えた時に奥が深いことに気づいていきました。
それと、私たち自身で開発を進めていくうちに布帛とは違う可能性も感じています。
例えばコットンやウールにはある程度限界があるのに対して、レザーは動物の違いだけでなく、年齢や産地、厚み、固さの違いで、同じなめし方、染色をしても全く違う表情になります。
限界が見えないと言いますか、これから新しい発見もたくさんありそうですし、それがどれくらいあるのかわからない、まだまだ可能性があることが面白いところであり、惹きつけられるところです。
--- 立石さんはレザーの魅力をどんなところに感じていますか?
立石
私の考えるレザーの魅力は特別感です。
噛み砕いていうとレザーのアイテムには宝物のような感覚があるというか。
フルベジタブルタンニンでなめした硬い革のジャケットでも着用を重ねれば柔らかくなってその人の体に馴染んでいきますし、メンテナンスすればずっと着られる。
着用者しか表現できない革の変化を楽しめるし、使っていけば愛着が湧いてくる。
これはブーツや財布、なんでもそうです。
レザーアイテムを自分だけのものにしていくということは布帛ではなかなか楽しめない部分であり、レザーが持っている最大の魅力だと感じています。
私たちのレザーアイテムもお店に納品された状態で完成ではなくて、購入していただいてから着続けることでどんどん完成形に近づいていくものだと思いながら製作しています。
レザーアイテムは他の素材と比べて作ることが難しいですし、だからこそ製作していて楽しさも感じます。
何よりそうして出来上がったものには特別な洋服だという雰囲気も自然と生まれるのかなとも感じています。
コンセプトの緊張主義も伝わりやすいという意味でも、私たちにとって特別な素材です。

トワルでのチェックはD.HYGENのデザインを形にする重要な作業の一つ。
--- デザインにパターンが含まれているという話をしていらっしゃいましたが、具体的に形にしていく上でどんなことを考えながら製作しますか?
立石
パターンもデザインに含まれているとはいえ、やはり先ずは定兼の考えを忠実に形にすることを第一に考えています。
私は感覚的な部分よりも、数字に基づいたデータを重要視して組み立てていくのですが、私のやり方として、作りたいシルエットに対して、まず、それを表現するための各部位の数字の範囲があります。
その数字をベースに、各部位に落とし込んでいってシルエットを構築していきます。
数字はある程度の幅を持たせた範囲内から、少しづつ調整していって、最終的なシルエットが完成します。
そこに加えて見た目の部分でもイメージを形にするためのテクニックを織り交ぜていきます。
例えば後ろ身頃に背中の中心に一本線が入っている洋服の両脇に切り替えをいれるだけでシェイプしている様に見せるにしてるように見せるとか。
一つの切り替え線を入れるだけで印象が全然違ってくるので、そういうこともしています。
--- サイズバランスにも毎回微調整をされています。
それもここで調整するのですか?
立石
サイジングに関してもそうですが、これはトワルとサンプルの段階でも微調整を入れていきますので、最終決定はもう少し後になります。
ただ、海外での展開を含めて取り扱ってくださるお店が増えたこともあって設立当初よりも柔軟な考えでサイジングを調整する様になりました。
取り扱い先様の意見や時代性を加味しながら過去の作品を検証して、それから試行錯誤を繰り返して、新しいパターンを製作しています。

直接書き込み、何度も修正を入れながら形を決めていく。
--- 有益なものは取り入れながら、数字を元にした基本的な方法は変えない、という考え方ですね
立石
私たちは、素材、縫製、機能面、デザインの全てが両立してこそ品質の高い洋服だと考えています。
デザイン優先にしてしまうと機能面が失われることにも繋がりかねないですし、それを防ぐための考え方として、やり方を変えないというのは大切にしています。
作りたいものを作るということも大切ですが、そのために毎回やり方を極端に変えてしまうとブランドとしての統一感は出ないと思っています。
職人さんが縫製できないような作りもダメですし、縫えたとしてもすぐにほつれるようなものもダメ。
洋服としての品質を担保できることにプラスして複雑な構造を付け加えていくという感覚は絶対に無くさないようにしています。
ブランドとしてのイメージや洋服としての品質にも関わってくる部分ですので、やり方はブレないように気をつけています。
当たり前のことですが、縫えることも大事なので、曲線の切り替えにしても、縫製職人さんがいかに縫いやすいかと、私たちの表現したいもののためカーブも作るということは常に頭に入れながら製作しています。
--- サンプルも自分たちで製作しているのはそういう確認の意味合いもあるのですか?
定兼
その通りです。
今でも展示会のサンプルの半数ほどは私が製作しています。
これには出来上がったデザインとパターンを形にした時、洋服として機能しているかを、私たち自身がサンプルを実際に縫って確認する意味合いも兼ねています。
私たちは製品を実際に縫う技術はありません。
人にお願いするからこそ、私たちが理解していないと職人さんにお願いもできないので、私たちが自分の理想とするものを製作するために必要な工程です。
サンプル製作は半数以上自分たちで製作
確認のための手間を惜しまない姿勢で製作に臨む。